My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
苦々しく歪む顔が、トクサを睨み付ける。
「放せッこの教団の犬めが…!」
「…おや。私のことを知っているようで?」
その罵声には、トクサも笑顔を残しつつ瞑られていた瞳を僅かに開いた。
見た目は使用人の服装のまま、髪型も以前リッチモンドと会った時とは変えてある。
いくらリッチモンドが使用人全ての者の顔を記憶し、トクサを部外者だと認めても、そうも即座に黒の教団の者と繋げられるだろうか。
「やはり要注意人物でしたね。ウォーカーは貴方のAKUMAを見たと言っていましたが…それは恐らく貴方とは別物でしょう」
トクサにAKUMAを見破る眼はないが、AKUMAと同じ組織は持ち合わせている。
故に戦い交ればわかるのだ。
目の前の男の掴んだ腕からは、AKUMAのようにちりちりとこびり付き伝わるであろう殺気は感じない。
「貴様達の狙いはノアだろう…!?なら私には関係ない!」
「今なんと?」
雪がノアであることはリッチモンドでも知り得ていないはずの情報。
となると彼が口にしているのは、別の者ということになる。
「(ノアが出たのか?)…益々見過ごせませんね。貴方は月城雪の居所を知っていますか?」
彼女が見つからない原因に、もしノアが一枚噛んでいるのだとしたら。
現時点で何よりもノアと接触させてはならないのは、14番目であるアレン・ウォーカーと13使徒のノアメモリーを持つ月城雪である。
特に雪は、アレンのようにノアと渡り合える武器となるイノセンスは扱えない。
敵の手に渡ってしまえば、簡単に捕食されてしまうだろう。
「知っていると言ったらどうするのだね。私を此処から逃してくれるとでも?」
「大層自慢していたこの屋敷を置き去りにしてまで、逃げ出したいのですか?何から?」
「………」
「予想以上に、貴方は教団やノアの危険性を知っているようだ。捕獲対象です」
「っ私はこんな所で餌になるつもりはない…ッ」
大きく身を捩るリッチモンドの懐から転がり出たのは、一丁の拳銃。
即座に拾おうとするリッチモンドの腕を更に捻り上げて、トクサは易々と拘束した。