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My important place【D.Gray-man】

第48章 フェイク・ラバー



✣ ✣ ✣ ✣


上品な音楽が、分厚い壁を隔てて微かに聴こえてくる。
大きな窓硝子の向こうは賑やかな世界。
そんなBGMと景色を感じながら、トクサは一人屋敷の壁に設置された灯台の上に立っていた。
器用に丸い灯りを囲う硝子の上でバランスを保ったまま、じっと微動だにせず屋敷の周りを観察する。
舞踏会が始まってからは、ぱったりと馬車も人の足も止んだ。
屋敷の中に入っていく者もいなければ、出ていく者もいない。

だからこそ、それに目を止めた。

大きな正門からではなく、裏戸口から出てくる一つの影。
分厚いコートを羽織り、フードを深く被っているため人相はわからない。

顎に手を当てて、ふむと観察する。
数時間前なら、目は止めても事後報告するくらいだっただろう。



(捕まえてみるか)



その気にさせたのは、怪し気な雰囲気を纏っていたからではない。



「愚鈍な使徒様達は、まだ月城を見つけられていないようですし…ね」



監視対象である彼女の行方が、未だ掴めていなかった為である。

ひらりと高い灯りの上から、音もなく飛び降りる。
足早に屋敷の柵外へと出ていこうとする人物の前に、猫のように軽やかに着地した。



「!」

「こんばんは。舞踏会は楽しめていますか?」



現時点のトクサの身形は、屋敷の使用人と同じもの。
にこりと顔に笑顔を貼り付けて呼びかけるトクサと、フードの中の見開く目とが重なる。



「…貴方は」



急なトクサの登場に、顔を隠す余裕もなかったのだろう。
見知った顔に、トクサは思わず笑顔を止めた。
しかし懐へと手を差し込む動作は見逃さず。



「おっと。変な真似はお止め下さいね」

「ぐ…ッ」



にこにこと笑顔を張り付け、一気に間合いを詰めて腕を掴み捻り上げる。
苦しげな声は男のもの。
乱れたフードが頭から滑り落ち、屋敷の明るい灯台に照らされたのは輝くシルバーブロンド。



「何故屋敷の主が一人で出歩いているんですか?」

「…っ」



見違えなどしない。
彼こそ誰よりもこの屋敷の正門から、堂々と出入りが許される人物である。










「リッチモンド伯爵」

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