My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
「うわ何…ビビった」
「じゃないよ!何してんの!」
「何って、ナニ」
「そんなテンプレート回答要らないから!」
ずかずかと足早に迫るシェリルが、身を起こすティキの下から雪を奪い取る。
テキパキとベビードールを下ろしショーツの紐を結び直す様は、驚きながらも慣れているようだった。
「君って奴はっ伴侶は作らない癖にそっちは緩いんだからっ」
「俺も男だし、性欲くらいあんのよ。どうせ処理するなら、一人より二人の方が楽しいだろ」
「なら世帯を持てばいいだろう。そしたらいつだって抱ける女性ができるのに」
「えー…面倒くさ」
「…本当、君って奴は…」
心底気怠そうに嫌がるティキに、雪を片手で支えたままシェリルはひくりと口角を震わせた。
性に関してだらし無いと言うよりも、性に関しては食事や睡眠のようにさも当たり前に手を伸ばし求める。
「折角堕ちかけて面白いところだったのに。邪魔すんなよ兄サン」
そしてそこに歪んだ思考も持ち合わせているのが、ティキ・ミックという男だ。
「それにその娘も辛いと思うけど。そんな状態で放り出されちゃ」
「知らないよ、この娘の事情なんて。それより事態が急変したんだ」
「何?」
「エクソシストが現れた」
胡座を搔いた膝に頬杖を付きながら、白けた表情をしていたティキの動きが止まる。
「それも競売所へ殴り込んできたんだよ。今ジャスデビが相手してる」
「AKUMAを嗅ぎ付けたか…少年かな?」
「いいや、アレン・ウォーカーは見当たらなかった。ジャスデビが前に方舟で相手したクロウリーとか言う吸血鬼だよ」
「ああ、あの旦那」
「それと長髪の美男子」
「美男子?」
「話には聞いていたけど、噂違わぬ美しさだったね。思わず調教したくなったよ」
うっとりと思い出し頬を染めるシェリルが認めるとあらば、余程整った容姿なのだろう。
そんな長髪美男子のエクシソストは、一人しかティキには心当たりがない。
しかしその一人で充分だった。
「…へえ…あいつが」
幾度となく脳裏にちらついていた存在。
その彼が今、数十m先にいるのだと言う。