My important place【D.Gray-man】
第48章 フェイク・ラバー
再び背後にリッチモンドが回ると、ガコンッと何か重いスイッチを入れるような振動が響く。
「純白のドレスに赤はよく栄えるだろう。美しい肉体の終わりを私に見せてくれたまえ」
ジャラジャラと鎖が引かれる音がする。
ゆっくりと床が浮上していく。
真っ暗な闇だったはずの空間に、一筋の光が差し込む。
天井から木漏れ日のように差し込むそれは、徐々に強さを増した。
競り上がる床に、見えてきたのは天窓のような出口。
真四角に切り取られたそこは眩い光を放っていて、マスカレードマスクの下で雪は目を細めた。
ガコン、と再び重い音がして、床の振動が止まる。
眩い光の中で迎えたのは静寂。
…ぱち、
最初に雪が耳にしたのは、小さな小さな拍手だった。
やがてぱちぱちと重なる音に、眩む目をどうにか周りに凝らす。
視界は朧気。
はっきりとは見えない。
しかし眩い光は自分の周りだけで、拍手はその向こう側から聞こえる。
眼下に広がる、黒い人影の群から。
傍らに立つリッチモンドが片手を上げると、拍手は鳴り止んだ。
「紳士淑女の皆様。今宵はナイトメア・バンケットへようこそお集まり下さいました。束の間の時間ではありますが、それこそが永遠。此処でしか味わえない娯楽を、とくと骨身に感じて下さいませ」
シンとした空間に静かに響くリッチモンドの声。
優雅に彼が一礼する間に、雪は光の中で徐々に慣れてくる目を凝らし続けた。
薬の所為で詳細は確認できないが、スポットライトのように光を当てられた舞台の上に自分の身が置かれていることはわかった。
目の前の黒い人影の群は、雪が弾幕の下から見た不気味な群衆なのだろう。
薄暗い広間の中で、雪に向く無数の視線がある。
「既に"競り"は始まっておりますが、皆様欲しいものは入手できたでしょうか?今宵は若い男女が大勢います。ぜひお気に入りのものをお持ち帰り下さいますよう」
片腕を広げてリッチモンドの示す先を、力の入らない首をどうにか傾けて雪も見やった。
薬とマスクの所為で狭められた視界でも、辛うじてそれを確認する。
壁際に設置された舞台の上には、見覚えのある者達が並ばされていた。
皆一様に首に枷を嵌められた、雪が檻の中で見つけた者達だ。