My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
「でも、そうね。こんな高そうな絵を拝借するのも…もし傷付けでもしたら、また兄さんが損害賠償金でルベリエ長官に頭を下げなきゃならなくなるし…」
「だよね!私もリナリーに賛成!室長を泣かせたくないもんね!」
「単に怖いだけでしょう貴女の場合」
「違イマス」
トクサの方には目も向けず。
雪は笑顔でリッチモンドに向けて首を横に振った。
「ご協力はありがたいのですが、借りるのは手間と時間も掛かりますので遠慮致します。代わりに監視カメラを配置させてもらってもいいですか?」
「それは此方が遠慮願うよ。此処は私のプライベート空間。芸術の間に変な物を置かれては困る」
「そこをなんとか、一晩だけでも…」
「いいや、よしてくれ」
リナリーが頼み込もうとも、きっぱりと断りを入れるリッチモンドは折れそうにもない。
どうしたものかと雪が考えを巡らせていると、不意に腕の中の獣が身動いだ。
「? どうしたの?」
ずっと大人しく腕に抱かれていた猫が、身を乗り出し何かを見つめていた。
視線を追えば、入ってきた入口とは別の入口を一心に見つめている。
その先に鼠でも見掛けたのだろうか。
「リッチモンド伯爵、あの先には?」
「ん?…ああ、此処から先は私の芸術の間だからね。絵画以外の作品を飾ってある。エジプトで見つけたミイラの標本や、かの有名なジャック・ザ・リッパーのナイフなんかもある。興味があるかい?」
「イイエ」
どうやら絵画だけでなく、その他の趣味も独特の感性に染まっているらしい。
不気味な光景はこの場だけで充分だと、雪はまたもや笑顔で首を横に振った。
「ほら、大人しくしてて。この後ご主人を捜してあげるから」
尚も身を乗り出す猫を抱き直す。
と、先に続く薄暗い芸術の間に人影を見つけた。
掃除でもしているのだろうか、使用人の若い男が一人。
(ん?)
舞踏会の準備で多忙な屋敷内を思えば、何処に使用人がいても不思議ではない。
なんてことのない日常光景だろう。
しかし雪の目はなんとなしにそこで止まった。
男の、燃えるような赤毛の頭に。