My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
雪はティキのことには、なんでも興味を持った。
その中でも特に興味を示したのは"家族"のこと。
「だってイーズ達の話をしてる時のティキ、楽しそうだし…あ。シェリル達の話も聞きたい」
「あいつの話はいいだろ」
「ううん、聞きたいよ。ティキが話してくれることなら」
二、三歩先を歩く雪が振り返る。
ふわりと真白な服を靡かせ、笑う顔は年相応なものだ。
「ティキの家族の話だから、たくさん聞きたいの」
「…何処でそんな口説き文句覚えてきたの」
「?」
家族が知りたいなどと、ティキの周りにいた貴婦人達が口にする時は、いつもティキの懐に入り込もうと野心を立てる時だった。
しかし雪にはそんな意図的な思いは見えない。
ただただ家族に憧れる、その子供のような思いの起源はティキも知っている。
それでも口元が勝手に緩んでしまうのは、彼女に抱いた想いの性か。
「いいよ、話そうか。隣にどうぞ、お嬢さん」
「うんっ」
柔らかな草原に腰を下ろして手招けば、すとんと隣に座り込んでくる。
きらきらと期待した目で見つめてくる姿は、まるで寝入る前に物語を読んでもらう無垢な子供のようだ。
「じゃあシェリルの話からでも。あいつの最近の悲劇、知りたい?」
「ふふ、悲劇なの?」
「俺には笑える話だけどな」
「何それ」
「この間、朝食時にワイズリーがとうとうガマ子持ち込んでさ」
「がまこ?…あっ蛙の?」
「当たり。そいつがシェリルの悲鳴に驚いて跳ねたかと思えば、まさかの紅茶のカップにダイブしたんだよ。シェリルの」
「えぇーっそれから?」
「それはもうシェリルの顔面が真っ青に───」
テンポよく話すティキの声に、時折笑い声を上げながら相槌を打つ雪。
二人の間に交わされる言葉のように、心地良い風が間を抜けて吹いていく。
二人の頭上に広がるは、澄み切った青空。
何処までも邪魔なものなどない空から見下ろすように、両目を瞑り額の第三の眼で見守るワイズリーはつい笑みを深めた。
その二人の姿こそが、まるで家族のような親しみある間柄に見えてならなくて。