My important place【D.Gray-man】
第47章 リヴァプールの婦人
(まぁ、"悪役"っちゃあ"悪役"だけど)
此処ではない、現実世界での"ノア"という立場は間違いようのないそれだ。
イノセンスやエクソシスト、そして黒の教団が正義などとは一切思っていないが、自分達が"必要悪"である自覚がティキにはあった。
「それより、雪」
「それよりって言われた…私の蟠り…」
「最近どう?」
「何その漠然とした会話の出だし」
「いつも俺のこと忘れるから、色々聞きたいって言い出したのは雪だろ。だったら俺にも雪のこと教えてもらわないとフェアじゃねぇし」
「…あ、」
そう言えばそうだったと、記憶を遡りながら雪は頷いた。
確かにそんなことを以前に伝えた。
そうして、会う度に身の回りの話をするようになってどれ程か。
そんな経験のなかった雪にとって、ティキと会話を交えるのは新鮮でいて楽しいものだった。
普段誰にも言わないことを、言えないことを、自然とこの空間でティキと向き合っている時には吐き出せるような気がして。
だからこうして彼と出会えることが、嬉しいと思えるのだろう。
「最近…は、あんまり何も変わってないよ。相変わらずサードは手厳しいし仕事は激務だしユウとアレンは顔を合わせれば喧嘩ばっかり」
「はは、その二人の名前が出てくると9割方喧嘩だよな」
「本当、犬猿の仲過ぎるよ。ティキみたいに笑ってスルーできるようになれば二人も………いや悪化するな色々と」
「褒められてる気がしないんだけど?」
「半分は褒めた」
「ひで」
軽いフットワークでコミュニケーションを取ってくるティキとは、自然と会話のテンポもよくなる。
一緒にいて苦じゃない雰囲気は、雪にとって息がし易い。
それはラビといる時の感覚に似ている。
「じゃあいつもの教団ライフを送れてるってことか。結構結構」
「………」
「?」
結構なことだとは思わないが、悪化するよりは余程良い。
雪の立場上、いつ首を跳ねられても可笑しくはないのだ。
ロードの言ったように、蛇の口の中にいる彼女はいとも簡単に胃袋へと呑み込まれてしまう。
しかし頷くティキの目に映った雪の表情は、決して良いものではなかった。
無言を貫く彼女の瞳は、泥水を反射し暗く濁る。