My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「…うん」
ゆっくりと雪の体を包むようにして被さる。
俺の言葉に素直に同意を示した雪も、応えるように両手を伸ばしてきた。
…ジャラ
俺と雪の間で感じる柔らかい空気。
それを壊したのは、冷たく擦れる鎖の音。
雪の動きが止まる。
俺へと伸ばした両手首には鉄の錠。
そこから伸びた鎖は両腕を繋いでいる。
俺の背中に手を回しても、鎖が邪魔をしてしまう。
そのことに気付いたんだろう。
息を呑んで、見上げていた瞳が不安で揺れる。
雪の表情が陰るのを、はっきりと目にした。
チリ、と眉間の上が焦げ付くような感覚。
いけ好かない。
雪の顔が不安で覆い尽される前に手を伸ばした。
俺を求めるように伸ばして、でも触れようとしてこない手に。
小さな手を掴むように握ってシーツに押し付ける。
簡単なことだ。
抱きしめられないなら、繋いでいればいい。
「んぅ…っ」
反応も待たずに唇を覆う。
さっきとは180度違う、余裕を与えないキス。
深く塞いで、舌で翻弄して、俺の存在を刻み付ける。
「っは…今は俺だけ見てろって言っただろ」
チリチリと焦げ付く不満。
眉間に皺を刻む。
鎖なんてただの無機物。
今ここに存在してるのは、俺と雪の二人だけ。
俺以外に見るもんなんてねぇだろ。
俺だけ見て、感じてろ。
余所見なんてさせねぇから。
「ん、んぅ…っは、ぁ」
返事はなかった。
ただ、求めるように雪も舌を伸ばして絡めてくるから、俺もそれに応えた。
息継ぎ以外の暇は与えない。
歯茎も舌裏も上顎も全部舐め尽して、粘膜を擦り付ける。
じゅ、と唾液を吸う音が鳴る。
「は…っン、」
酸欠気味になりながらもキスを求める雪の目が、とろりと蕩ける。
快楽に落ちていく。
もうそこに不安の色はない。
真っ暗な潤む闇色に移り込むのは、俺一人だけ。
俺色に染まっていく雪に、支配欲が駆り立てられる。
もっと。
もっと俺を刻んで、俺で満たしたい。