My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
雪に照れ癖があるのは知ってる。
だから体を重ねる度に部屋を暗くして欲しいと、恥ずかしそうにでも真剣に伝えてきた要求を受け入れていた。
俺も人並みの性欲くらいある。
好きな女の体をはっきりと目にしたい欲だってある。
それでも要求を受け入れていたのは、体への欲以上に雪の心への欲があったからだ。
本気でこいつが嫌がることはしたくない。
だから無理強いはしなかった。
暗闇に慣れた目になんとなしに映る、柔らかな曲線を描いた雪の肌。
顔色ははっきりとはわからなかったが、暗さ故に漏らす吐息や体の震えや気配が敏感に感じ取れて、俺の腕の中で恥ずかし気にでも感じる様は充分に優艶だった。
だが裸を見られることだけに抵抗を感じていた訳じゃなかったんだとわかった今、そこへの欲を止める意味はない。
恥ずかしいだとかみっともないだとか、んな理由で止めさせようとするなら聞かねぇからな。
…怖さはあるだろうが、全部俺に話してくれただろ。
腕を拘束していた手を放す。
肩を掴んで向き合うように振り返えさせれば、前のめりに倒れていた雪の体はそのままバランスを保てずシーツの上に寝そべった。
顔の横に手を付いて上から見下ろす形で捉えた雪の目は、不安な色を宿していたけれど逸らされはしなかった。
一頻り視線を交えて抵抗のない雪を確認してから、ゆっくりと胸元を目で辿る。
少しだけ開いている服の隙間。
だが肝心の跡が残る胸元までは見えなくて、手を伸ばした。
「…っ」
ボタンを一つずつ外していく。
片手だけじゃゆっくりとしか外せない。
段々と露わになっていく雪の肌は、いつもの暗闇の中で晒されていた、なんとなしに見える肌色じゃない。
ゴーレムの白い光に照らされて、はっきりと目に映る肌。
鼓動が勝手に速くなる。
雪も同じに感じているのか、息を呑む気配がした。
それでも手を止めずにボタンを外し終えると、肌に掛かっていた服を手でゆっくりと払った。
光の下で露わになる雪の上半身。
男とは違う柔らかみのある肌に、胸の二つの膨らみ。
その二つの頂を覆う白いレースデザインの下着の間には、肌より更に薄い色をした…歪な十字傷のような、火傷の跡が残されていた。