My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
教団に向ける慈悲なんてない。
だからモヤシの実態を伝える気も、更々ない。
「………」
「それもこの治った火傷跡みたいに、消えてたりしないかなって…気になっただけ」
俺の中で渦巻く、ドス黒い感情。
それに気付くこともなく、言い難そうに雪が体のことを伝えてくる。
モヤシのことなんざどうでもいい。
教団のことも。
渦巻く黒い感情を追い払うように、目の前の雪に集中する。
今は俺が見ていたい、救いたいもんだけに目を向けることにした。
「……だからか」
「え?」
白い囚人服に隠された雪の胸元に目を向ける。
その薄い服の下の肌には、直接何度も触れたことがある。
顔を埋めて柔らかさを実感して、体温を感じたこともある。
だがはっきりとこの目に映したことは一度もなかった。
「お前、裸になる時は頑なに部屋を暗くしろって、肌を見せようとしなかっただろ。ただ恥ずかしがってるだけかと思ってたが…それか。理由は」
「………」
なんだその無言の癖に訴えるような目は。
その顔でそのだんまりは肯定してるようなもんだぞ。
「…女子の事情です」
はっきりと言ってやれば、ぽつりと対抗するように言い返した後、雪は背を向けてベッドに座り直した。
「…こっち、見ないでよ。見られるの恥ずかしいから」
背を向けて、顔だけ振り返ってくる。
その表情には言葉通りの照れ臭さが表れていて、仕方なく従ってやることにした。
椅子ごとベッドから背を向けて座り直す。
ああいう表情の雪は本当に恥ずかしがってるからな。
下手に煽れば益々身を隠してしまうのは、充分目に見えていた。