My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
視線を上げる。
直視できなかった雪の姿を、ゆっくりと目に映す。
小さなベッドの上。
そこに腰掛けたまま、雪はじっと触れることのない俺の手を見つめていた。
「でも、やっとの思いで教団に辿り着いた時…私の親は、もう、この世にはいなかった」
淡々と動く口以外は、微動だにしないまま。
「本当に欲しいと思ったものは、手に入らない」
欲しいもんがある癖に、簡単には手を伸ばさない。
自分の本音を押し込んで、適当に取り繕う。
そんな雪は俺とは真逆の性格だ。
俺も胸を張れたもんじゃないが、傍から見れば雪は面倒な奴だと思う。
どうでもいい相手なら、程好く距離を置く都合の良い相手だ。
だがそれ以上の感情を抱いてしまえば、何かと面倒な相手だろう。
「…私は行動に起こすのが、遅いから」
そしてこいつ自身も、そんな自分を理解してる。
一番面倒だと思ってるのは、雪自身なのかもしれない。
俺自身も雪を求めるようになって、面倒臭ぇこいつ、なんて思ったことは数え切れないくらいある。
「………」
ただそこに嫌気が差したことは一度だってなかった。