My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「傷、痛むか」
「…ちょっとだけ。婦長さんが手当てしてくれたから…そんなに痛くないよ」
緩く抱いたままの雪の体を伺う。
俺がスキン・ボリックのノアの力にやられた時と同じ。雪がイノセンスにやられた傷は、決して軽いもんじゃないはず。
なのに問えば返されたのは、見慣れた笑顔だった。
……お前な。
「……」
「……」
「……」
「……ぃ…痛い、です」
「ったく。どこまでいっても我慢する癖は抜けねぇな」
「ぁたっ」
無言で圧を掛ければ、冷や汗を流しながら忽ち雪は降参した。
待っていた反応に、包帯の巻かれていない額を指先で弾く。
ったく。最初っからそう言えよ。
「今は任務中でもなんでもねぇだろ。俺の前でやせ我慢するな」
「…ごめん」
呆れて溜息一つ。
今は我慢する理由なんてないだろうが。
…まぁ、昔から耐え忍んできた癖みたいなもんなんだろうが。
雪に聞くだけじゃ足りずに、自分で事態を把握する為に独房の中を見渡せば、小さな机の上に食事のトレイと水差しとコップ。それから小さな薬袋を見つけた。
「薬も効かねぇのか」
「えと…それは…」
「? なんだよ」
恐らくあれは、この怪我の為の薬だろう。
問えば言い淀む雪に、視線を戻す。
ちゃんと言えと目で促せば、申し訳なさそうな顔で雪は拳を握った。
「…吐いちゃうから…飲めなく、て」
吐くって…なんだ、体調でも悪いのか?
「…具合、悪いのか」
「なんにも…ただ、食欲なくて…喉に通らないだけ」
不安が過ぎって問いかける。
けれど雪は首を横に振って、それを否定した。