My important place【D.Gray-man】
第13章 夢現Ⅰ
コツ
ブーツの先が暗がりから見える。
真っ黒に塗り潰されたブーツに、細身の足。
その体に纏っているのは真っ白な──
「…ウォーカーさん…?」
蝋花さんの声が静かに響く。
其処に立っていたのは白髪のエクソシスト。
アレン・ウォーカーだった。
「…アレン…」
蝋花さんに続けて名を呼ぶ。
イノセンスを発動した真っ白なマント姿で、ティムを連れてその場に佇むアレン。
その口からゾンビの唸り声は聞こえないけれど、反応もない。
静かにその場に佇んで、垂れた白い前髪で隠れた表情は見えなかった。
一瞬、正気かと思ったけど、でも確かにあの時私は見た。
ジョニーに抱きかかえられて、体をゾンビウイルスに感染させたアレンを。
「ウォーカーさん…っ!」
沈黙を破ったのは蝋花さんの声だった。
弾けるように飛び出したその体に、一瞬皆の反応が遅れる。
「駄目、蝋花さんッ!」
咄嗟に後を追った。
「ウォーカーさん私です! 蝋花ですっ!」
涙ぐみながら駆け寄り呼びかける蝋花さんの気持ちはわかる。
わかるけど、でも駄目だ。
呼びかけなんてゾンビには通じない。
恐らく元帥以外には。
「ウイルスに感染したって本当ですか…!?」
駆け寄る蝋花さんに、アレンが静かに左手を上げる。
イノセンスを発動したままの、奇怪な左手を。
駄目だ。
「アレン駄目…!」
普段のアレンなら絶対にそんなことしない。
一般人の、それも女性を傷付けるようなことなんて。
駄目、そんなこと。
そんなことしたら蝋花さんだけじゃなく、絶対にアレン自身も傷付く。
必死に蝋花さんに伸ばした手は遅れて空(くう)しか掴まず、アレンの左手は容赦なく蝋花さんに振り下ろされた。
ザシュッ
肉を裂くような音が響く。
「…ぁ…」
驚き目を見開いた蝋花さんが、その場でふらりと足を止めた。
「ったく。ガラでもないことしてんじゃねぇよ」
いつの間に間合いを詰めたのか。
アレンと蝋花さんの間に立っていたのは。
「クソモヤシ」
アレンの奇怪な左手を己の手で掴んで止めた、神田だった。