第7章 特別指南 1
「さぁ、急いで片付けて今日は寝る準備をしよう。」
隊長の顔で藍染隊長が言う。
さっきまでの男の顔なんて微塵も見せない。
あのとき微かに聞こえた好きだと言う言葉も、幻聴だったのかと疑うほど。
「は、はい。」
砕けそうな腰を何とか気力で支えて膳を片付けに部屋をでる。
平静を保とうとするのにどんどん赤くなる頬はいうことをきかない。
阿近さんの時も思った。
大人の男の人って切り替えが早すぎる!!
こういうことしてもどうして何でもない顔して平気にできるの?
私が慣れてないだけ?
みんな慣れてるから?
こういうこと、いっぱいしてるのかな……
なんか、モヤモヤする……
胸に沸いた不快感は、唇を合わせた誰に対して感じたのかはわからない。
でもきっと私は不特定多数の一人にしか過ぎないのだと思うと心臓が捕まれたように痛かった。
お風呂を済ませて部屋に戻る。
襖を少し開けると文机に向かう藍染隊長の背中が見えた。
「あの、藍染隊長……」
声をかけると振り返った藍染隊長。
「あぁ、僕はもう少し書類を片付けてから休むから先に休むといい。」
柔らかく微笑む顔。
あまりにも優しい目で見るから、ドキンと心臓が跳ねた。
「はい。お休みなさい。」
きっと上手く眠れない……
こんなに側に藍染隊長の気配を感じていたら、唇の感触が甦って、眠ることなんて出来ない。
襖を閉めながらそう思った。