第48章 オンリーワン
「…………結、っ!!」
街灯の下をふらふらと歩く背中が、一瞬歩みを止めた後、そのスピードを加速する。
「はっ、待って……結!頼む、から……っ、話、聞いて!」
いつもより小さく見えるその身体に追いつくと、黄瀬は伸ばしかけた腕をゆっくりと下ろした。
全身から発する拒絶のオーラに、自分のしたことの大きさを思い知る。
「送ってく、から」
「……結構、です」
「や、もう暗いし……危ないから」
「…………」
無言のまま歩き続ける結の後を、黄瀬は少し距離をとりながら歩いた。
足が鉛のように重い。
「猛犬注意」「自治区 班長」と門灯に浮かび上がる文字だけが、ぼんやりと視界に入る。
(へぇ……ここ、犬飼ってんだ。知らなかった)
何度も通ったこの道も、隣にいる彼女のことしか目に入っていなかったのだ。
こんなにも大切で、ずっと大事にしようと思っていた存在を、このまま失ってしまうのだろうか。
寒々とした空気が吹き抜けて、ぞくりと足許から這い上がる悪寒に足がすくむ。
いつもならあっという間に過ぎていく時間が、今日はこんなにも長くて辛い。
「……結」
耐えきれずこぼれた声に返ってくるのは、威嚇するように吠える犬の声と、背筋が凍りそうなほどの静寂。
何ひとつ打開策を見いだせないまま、じわりと汗ばむ手のひらを、黄瀬はズボンのポケットに突っ込んだ。