第44章 フェスティバル
「きゃああーー!リョータぁ!サインちょうだい!」
「一緒に写真撮って!」
モデルキセリョのファンらしき集団が、人目もはばからず奇声を発するのを、黄瀬は唇に当てた指一本で見事に鎮圧。
「ゴメンね。今日はオレ、ただの高校生なんで、そーいうの遠慮してもらえると助かるんスけど」
少し困ったような微笑みに、目をハートにした女子の群れがいっせいにコクコクと頷く。
「ありがと。あ、コレうちのクラスの喫茶店。よかったら寄ってって」
さわやかスマイルで最後のチラシを配り終えると、黄瀬はひらりと身を翻した。
(宣伝用のチラシは配り終えたし……よし、行くっスよ!)
駆ける足が軽い理由はただひとつ。
──もうすぐ会える
それだけで、こんなにも心が躍るなんて。
「わ、あの人格好よくない?」
「ホント!背も高いし運動部のOBとかだよね、きっと」
雑踏にまぎれて聞こえてくる声に、黄瀬は長い足をふと止めた。
(もしかして、センパイ?)
今日来るという話は特に聞いていない。
だが、かすかな期待に胸を膨らませながら、女子の視線の先を追いかけた黄瀬は、大勢の人が行き交う校庭のはるか彼方、目が合った長身の男性の遠目にも分かる不機嫌オーラに、口角をひくつかせた。
「え……お兄さんっ!?」
あわてて駆け寄って来る黄瀬に、翔は眉間に深い皺を刻んだ。
「だーかーらー!お前に“兄”と呼ばれる筋合いはねーんだよ!」
「う……す、すんません」と頭を下げた黄瀬は、「翔くん、そんな言い方しなくても」と取りなしてくれる声に、弾かれたように顔を上げた。
それは、キレイなお姉さんを絵に描いた、落ち着いた雰囲気の女性だった。
「え……もしかして、お兄さんの彼女さん……スか?うわ、美人さんスね!はじめまして、オレは黄瀬涼太。海常バスケ部のエースにしてキャプテン、そんで……イテッ!」
「黄瀬、テメェ……誰の許しを得て勝手に彼女に話してんだ、あぁ?」
バチンと背中を叩く大きな手。
黄瀬は、痛みに顔を歪めながらも、どこか嬉しそうに唇を綻ばせた。
「お前、もしかしてMか……どーりで」
「ち、違うっスよ!てか、どーりでって……万が一結に聞こえたらどーするんスか!?」
「はっ!」
妙なところで意気投合したふたりは、警戒するように辺りを見回した。