第42章 ファウル
「ちょっ、待って結!走ると危ないってば!」
ライトアップされたホテルのプールサイド。
「足を滑らせたらどーすんの!」と自分のことは棚にあげて、走り去る小さな背中を追いかける黄瀬の目と鼻の先で、扉は無情にもバタンと閉まった。
『女子更衣室』と書かれたプレートを恨めしげに見下ろす。
小さく息を吐き、何かを決意したように顎を上げると、黄瀬は禁断の扉に手をかけた。
「っ、黄瀬さん!?ココ、女子更衣室ですよ!」
躊躇なく開けたドアの向こう、タオルを顔に押し当てている小さな姿を見つけるのは簡単だった。
「貸し切りなんだから別にいいっしょ。実際、誰もいないんだし」
「モラルの問題です!私、まだ怒ってるんだから出てってください!」
取り付く島もない。
さらに逃げるように、シャワー室へと走る後ろ姿を目で追いかけながら、黄瀬は濡れた髪を掻きあげた。