第40章 ストーリー
激しく拳を叩きつけられて、悲鳴をあげるロッカー。
「く……っ、う」
そのまま額を押しつけると、何度も悔しさをぶつけながら黄瀬はひとり、その場に崩れ落ちた。
汗と涙が染み込んだ青のユニフォームが、負けたことを責めるように身体に張りついて息がうまく吸えない。
胸が潰れてしまいそうだ。
背中の数字は、青の精鋭を率いるキャプテンの証。
そして、偉大な先輩達から受け継がれた誇りと誓いだ。
初めて敗北を知って涙したあの日から、リベンジという単語を胸の奥に刻み、仲間達とともに血のにじむような努力をしてきたことは無駄だったのだろうか。
「ヤメロ!そんなこと……そんなこと、あるわけない!」
胸に湧き上がる虚しさを追い払うように、黄瀬はもう一度ロッカーを殴りつけた。
歴代の主将達は……笠松や早川は、いままでどんな思いで試合終了のホイッスルを聞いたのだろう。
今までどんな気持ちで。
「笠松センパイ……早川センパイ、オレ……」
海常を率いる者として、チームメイトには決して見せることの出来なかった悔しさと、己の不甲斐なさに感じる激しい怒り。
きつく噛んだ唇に滲む血と、頬を伝う涙が混じり合うことも構わずに、ひとり黄瀬はむせび泣いた。
血を吐くような声が、控え室に虚しくこだまする。
胸にぽっかりとあいた穴を冷たい風が吹き抜けて、心が凍えてしまいそうだ。
この隙間を埋められるのは──
「……結」
嗚咽を懸命に飲み込んで、汗ばむ髪をかきむしっていた黄瀬の耳に届いたのは、小さなノック音だった。
ハッと顔を上げた黄瀬のまつ毛に光る一滴の雫が、ポタリと膝を濡らす。
「……そろそろ、時間です」
用件を告げる控えめな声。
黄瀬は大きく息を吸い込むと、まだヒリつく喉に湿った空気を送りこんだ。
インハイに三位決定戦はないが、今日は予定通りホテルに泊まり、明日の決勝戦を見届けることが急遽決まった。
コートの上ではなく、観客席の上から観るしかない王者決定戦。
自分達に足りなかったものを見極めるために、そして日本一になった仲間を祝福するために。
「先に、行ってもらいましょうか?」
きっと今は酷い顔をしている。
情けない姿を見られたくない
縋がりたい
相反する気持ちをもて余しながら、黄瀬は涙で濡れた顔をユニフォームで拭った。