第81章 そして誰もいなくなった
「どうしよう…っ」
大切な薬を紛失するとは。
だが顔色を悪くする南に対し、ラビとリーバーは普段と変わらない表情をしていた。
「落ち着けって。昨日は薬飲んでたろ?なら必ず此処にあるはずさ」
「そう、かな…」
「多分、給湯室辺りじゃないか?水場はあそこだけだし……ああほら、あった」
「え。あ」
「寝惚けて置き忘れでもしたんだろ。次はちゃんと忘れるなよ?確かに此処は第二の自室みたいなもんだけど」
「す、すみません…」
不安は一瞬だけだった。
冷静な二人の対応によって、早々と見つけ出せた薬ケース。
覗いた給湯室からケースを手にしたリーバーが、ほらと南に握らせる。
慌てふためいていただけで、何もできなかった恥ずかしさに下げる頭が深くなる。
しかしそんな南に向けるリーバーの表情は、柔らかいものだった。
「やっぱ退院しても目が離せねー…心配さ…」
「まだ仕事復帰したばかりで不慣れなだけだ。慣れるまで見守ってりゃいいだろ」
「そーだけどさぁ」
「…ごめんなさい…」
最後に退院した身だとしても、もう立場はリーバー達と同じ科学班の研究員。
仕事意識が足りていないのは本当かもしれないと、頭の獣耳をヘタらせる。
そんな南の申し訳なさが募る謝罪に、きょとんとラビとリーバーは顔を見合わせた。
「ま、引っ越し終わるまでエクソシスト業も休みだしなー。南一人の面倒くらい余裕で見られるさ」
「これくらい、どうってことないから。お前は俺の部下だろ。不安な時は遠慮無く頼れ」
見合わせた顔を向けてくる二人に、呆れや怒りなどはない。
苦笑混じりな砕けた笑顔を向けられて、南は自然と肩の力が抜けるのを感じた。
二人の優しさに触れて、ほっとする。