第80章 再生の道へ
「全く。私に怒鳴られたくなかったら、病室を空けて頂戴。清掃ができないわ。貴女だって早く退院したがっていたでしょう」
「す、すみません」
「それとこれ。渡し損ねていたから」
「え?」
声を荒げることもなく、静かに婦長が病室に足を踏み入れる。
慌てて頭を下げる南に、エプロンのポケットから彼女が取り出したのは透明な小分けされた薬用ケース。
「一週間分の薬ケースよ。仕事に没頭し過ぎて忘れないように、持ち歩いて毎日服用するようにしなさい」
「ぇ…でも、痛む時だけ飲むようにって」
「貴女どうせ無理するでしょ。毎日飲みなさい、副作用なんてないから」
「は、はい!あり難く頂きますっ」
じろっと眼力ある目で睨まれ即座に首を縦に振る。
両手で素早くケースを受け取る南を前に、はぁと婦長は溜息を零した。
「本当、教団(ここ)の患者は子供以上に手間が掛かる人間ばかりね」
「…ご、ごめんなさい…」
呆れた顔でしみじみと言われれば、以前も任務で負った怪我を軽いものだと自己判断して、医務室へと行かなかったことを怒られた身。
申し訳なさそうに頭を下げる南に、婦長は静かに目を向けた。
「自覚があるなら、もっと自分の体を大事になさい。貴女は私達医療班にとって患者である前に仲間。エクソシストでも科学班でも命の重みは一緒なのよ」
表情は変わらないが、声は穏やかで優しい。
そんな婦長を前にして、南は思わずぱちりと目を瞬いた。
リハビリにしても退院許可にしても厳しかった婦長の、その下にある優しさに触れた気がして。
「おー、婦長良いこと言う!」
「あ・な・た・も・よ。エクソシストは今非番の身でしょう?また鍛錬なんかで怪我を負ってでもきてらっしゃい。問答無用で入院室に放り込むわよ」
「…ぃ、いえっさー…」
「き、気を付けます…」
ぱちぱちとラビが小さな拍手を送れば、忽ちじろりと鋭い婦長の目が向く。
それはラビとアレンの二人だけに向いていて、日頃の彼らの自身の体の粗末な扱いを物語っていた。