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科学班の恋【D.Gray-man】

第80章 再生の道へ



───コツリ、コツリと松葉杖を付く。

一歩一歩、普段より速度遅めに進む南を気遣うように、リーバーも隣をついて歩いた。
見下ろして垣間見える南の表情は無にも見えるが、ずっと彼女の上司であったリーバーにはわかる。
それは普段の彼女からすれば、暗いもの。

そんな表情をさせてしまったのは、自分の所為だろうか。
どう考えても思い当たるのは、先程の告白のことしかない。
大なり小なり、やはり彼女の心を左右させてしまったのだろう。
そこには罪悪感が浮かぶ。

しかし。



(…全く。俺も現金だな)



罪悪感だけではない己の感情に、リーバーは小さな溜息をついた。
心を左右させる程に自分の存在は大きかったのかと、そう思えば決して悪い気だけではない。
そこに僅かな嬉しさも感じてしまうから、なんとも身勝手なものだと自分自身に呆れる。



「…あの、班長。此処まででいいので…」



コツリ、と松葉杖を付いていた音が止まる。
足を止めた南の目の前には、女性病棟の廊下が広がっていた。
男性に比べて女性は圧倒的に少ない教団の職場。
ちらほらと医療班の看護師が偶に通るくらいで、人気のあまりない白い廊下を見渡して、そうかとリーバーも足を止めた。



「それでは…送って頂き、ありがとうございました」



ぎこちなく松葉杖を使って体の向きを変え、向き合った体勢で僅かに頭を下げる。
小さな頭の旋毛を見つめながら、同時に人の目がないことを確認して。
そっと、リーバーは目の前の体に手を伸ばした。



「…南、」



散々彼女の心を振り回して暗い表情も浮かばせてしまった中で、声を掛けるのは中々に躊躇する。
しかし南に約束させた思いと同じに譲れない思いがもう一つ、リーバーにはあった。

名を呼ばれ顔を上げた南の、大きなガーゼが貼られた頬。
そこに微かに触れる程度に、手の甲で触れた。
そんなふうに触れたことなど終ぞなかった所為か、固まるように驚いた南は動かない。

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