第80章 再生の道へ
「返事はなくていい。その代わり、一つ約束してくれないか」
「…約束…ですか…?」
はっきりと伝えれば、案の定南の顔に驚きの表情が宿る。
それでもリーバーは言葉を止めなかった。
「ああ。こんなこと伝えておいて、無理難題だとは思うが…職場では変わらず、上司と部下として接して欲しい」
「………」
「変に俺を意識させて、"科学班"としての立場を揺らがせたくないんだ。この教団で、科学班で作り上げたお前の居場所があるだろ。其処を居心地悪いものにしたくない」
無理を言っている自覚は充分にあった。
それでもそこだけは譲れないものだったから、約束という形にしてでも縛ろうとした。
そんなリーバーの思いに耳を傾けたまま、南は何も応えられなかった。
今すぐ此処で答えを出すことはできない。
ラビへの答えもまだ出していないのに、自分の心の都合で勝手なことはできない。
しかし返事は要らないと言うリーバーの思いに、胸は確かに締め付けられた。
「………」
それは微かな痛み。
「いいな?」
「……はい」
念を押すように問われ、頷くことしかできなかった。
そんな南を見て、リーバーはほっと胸を撫で下ろす。
沢山の仲間を一度に失って、今は喪失している南の心。
その弱さにつけ込むようなことはしたくない。
いつかこの想いを伝えられる日がくるかもしれない、と思ってはいたが、それはきっと今ではない。
「じゃ、病室まで送ろう。さっきの騒動で、体痛めたかもしれないしな」
腰を上げ、申し訳なさげに眉を下げながら笑いかけてくる。
ほら、と目の前に差し出されるリーバーの手。
そこに一瞬迷う素振りを見せた後、南はゆっくりと伸ばした手を重ねた。
コムイの薬で体を幼児化されていた時も、こうして手を差し伸べ優しく握ってくれた。
その時は胸が高鳴り、中々直視さえもできずにいた掌。
「………」
しかし今南の心を覆う感情は、それとは全く違うものだった。