第80章 再生の道へ
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人気のない第三広間へと続く廊下の一角。
二つの凸凹な人影が並んでいた。
高いものと低いもの。
「やー、でもまさかリナリーのイノセンスが、本人の血から作られてたなんてなぁ。驚いたさ」
「………」
廊下に設置された柵に肘を付いて凭れながら、深々と息をつくのはラビ。
彼とは反対に、背を向けて柵に身を預け煙草の煙を吹かしているのはブックマン。
「結晶型も、寄生型みたいに寿命が短くなったりすんのかな」
「………」
アレンやクロウリーのようにイノセンスを身に宿す寄生型エクソシストは、常に肉体が強力なイノセンスの力に侵され続けている。
故に肉体の寿命は通常より早く訪れ、そう長くは生きられない。
それが元々寄生型エクソシストが稀少だと言われる所以である。
ラビの呟きに、先程から考え込むようにブックマンは黙り込んだまま、何も応えようとはしない。
リナリーのイノセンスの説明を終え、司令室を出るとブックマンに促されるままついていった。
しかし"顔を貸せ"と言ったブックマン本人は先程から黙り込んだまま。
反応のない師に、しかし弟子であるラビは彼のそんな姿は見慣れているのか、急かす様子もなく。
「…ラビ」
「ん?」
やがて静かにブックマンは煙草を咥えていた口を開いた。
「お前は結晶型にはなるなよ。イノセンスにそこまで関わる必要はない」
「…ああ」
「もし結晶型の兆候が現れたらすぐ言うんじゃぞ」
「わかってる」
「そしたらもう教団(ここ)にはおれん」
「………」
さらりと告げられた最後の言葉に、ラビは開いていた口を止めた。
「……わかってんさ」
やがて一呼吸遅れで出てきたのは、先程と同じ言葉。
理解はできている。
予想もしていた。
結晶型イノセンス。
ブックマンとして興味はあるが、それを宿した本人の体にどんな負荷が掛かるのか。
未知数のものには手を出せない。
自分達は"傍観者"。
今は黒の教団にエクソシストとして付いているが、基本は中立となる立場なのだ。
完全なる"味方"ではない。
深く嵌ることは許されない。