第82章 誰が為に鐘は鳴る
次は何が起きたのか。
開いた視界に飛び込んできたのは、吹き飛ばされるようにして倒れるジジの姿だった。
ゆらり、と宙で揺れる金色の尾。
「テ、ティムキャンピー…?」
それは常にアレンの傍でお供している特殊ゴーレム、ティムキャンピー。
どうやらその丸いボディがジジを吹き飛ばしたらしい。
教団にティムキャンピーがいても可笑しくはない。
しかし何故急にティムが現れたのか?とバクが疑問を持つ中、床に転がっていた懐中電灯の光が動いた。
拾い上げたのは、暗い廊下の先から飛び出してきた黒い影。
薄暗い視界ではっきりとはわからなかったが、真っ黒なコートに真っ黒な団服。
それはエクソシストの姿だった。
「お前は…っウォーカーか!?」
「逃げます。走って!」
コートのフードで人相まではわからない。
バクの問いに応えることなく、その手が強く腕を掴み引く。
道案内をするかのように先頭を切って飛ぶティムキャンピーの後を、二つの足音がバタバタと駆け抜けた。
「───入って!」
「うわッ!?お、押すな…!」
長い長い廊下を駆け抜け、階段を駆け下り、幾つもの角を曲がり。
やがて二人と一匹が足を止めたのは、科学班の研究ラボだった。
何処から調達したのか、大量の机や椅子でバリケードを作った硝子扉横の四角い通気口。
どうやらそこがラボへの入口となっているらしい、蓋を開けた中にバクは体を捻じ込められた。
どうにかラボ内へと進めば、後からするりと入り込んだエクソシストがすぐさま蓋をする。
慣れた手つきを見るところ、この城壁を作ったのはどうやらその者のようだ。
「お前は…」
しかしバクの顔は晴れなかった。
肩にぽちょんと乗るティムキャンピーは、その者を仲間と認めているらしい。
しかしそれは本来傍についている白髪のエクソシストではないはずだ。
何故なら。
「誰だ。ウォーカーではないな」
先程聞いた一瞬の声は、アレンのものではなかったのだ。
厳しい顔を向けるバクに、黒い手袋をした両手がそっとコートのフードを脱いだ。
ぱさりと落ちるそれに、露わになる顔。
「お前、は…」
そこにはバクの思いも寄らぬ人物の顔があった。
「…椎名南、か?」