第82章 誰が為に鐘は鳴る
「なんで南なんだ…っコレットと重ねていないのなら、そいつに手を出すな!」
「…"彼女"が望んだんですよ」
ざわめく影はそのままに、声を抑えたダグが首を横に振る。
「彼女が言ったんだ。自分の所為で、大切な仲間を失った。彼らを暗くて寒い場所に置いて来てしまったって」
そうっと両手を広げると、ダグはやんわりと小さな体を慈しむように抱きしめた。
「だから連れて行きます。彼女が会いたがってる、彼らの処に」
「連れていくって…お前、何、言って」
「この子の目は真っ直ぐだ。曇りなき眼で、偽りなんて宿していない。だから手を貸してあげるんです」
「自分が何をしようとしているのかわかってるのかっ?」
「わかっていますよ」
目を閉じて、耳を塞いで、口を結んで、匂いを消して、感触を失くして。
そうして全てを取り上げ最後に残るのは、何をも存在しない真っ暗な闇だけ。
何も感じなくて済む、あたたかく優しい闇だ。
「幼い頃から、ずっと焦がれる魂を呼び続けていたんです。リーバー班長も見たでしょう。僕はその声に応えたいと思っただけ。もう彼女は充分頑張ったんだから」
ずぷり、と肌が呑み込まれていく。
南の小さな体を雁字搦めにした影の層が、ゆっくりと口を開けて呑み込んでいくようだった。
物理的なものだけでなく、少女の命の灯火諸共。
ぞわりとリーバーの背に悪寒が走った。
「ふざけるな…!」
大きく踏み出す。
勢いのまま目の前の腕のような影を掴めば、ざわりと空気が逆立った。