第82章 誰が為に鐘は鳴る
「なんでもかんでも自分でこなそうとする。それで回るのはあいつの世界だけだってのに」
「………」
「お前だってそう思うだろ、ジ……なんだその顔」
「ぶっは!」
「オイ。なんで笑う」
溜息と共に南の欠点を話せば、賛同すると思っていた目の肥えた元先輩は呆け顔。
かと思えば、唐突に噴き出したのだ。
まさか爆笑で返されるとは思っていなかったリーバーの額に、青筋が浮かぶ。
「いやだってお前…!そっ…ぶははは!」
「とりあえず殴っていいか」
「お、落ち着けって。なっ!」
「俺は落ち着いてる。お前が落ち着け。つーか笑うな」
「いやだってよ…ッ」
涙が出る程に笑えることなのか。
拳を握るリーバーに臆することなく、ジジは彼の肩を叩いた。
「そりゃお前だろ」
「…は?」
「お前のことだって言ってんだよ」
「?」
「だから、お前が南に言ってる小言全部、お前自身のことだよ。あいつはお前にそっくりってことだ」
「………俺が?」
「ああ」
自覚はなかった。
ジジにそう指摘されてもすぐにピンときたりもしない。
しかし生気の見えない、濁った南の瞳が何処で見覚えがあったのか。
ジジに言われてようやく気付いた。
(あれは、"俺"なのか)
家族同然の彼女を失い、仕事に没頭していた日々。
鏡に映る覇気のない顔をした自分の瞳は、どんよりと濁り切っていた。
誰にも頼らず一人で仕事漬けになっている南の姿を改めて見れば、確かにそれは見覚えがあった。
他人ではない、紛れもない自分自身に。
右から左へとスルーばかりしていたジジの言葉が今更ながら思い出される。
あの時のジジの心境も、こうだったのだろうか。
「…本当に俺に似てると思うか」
「ああ。お前がさっき言った南への言葉全部そっくりそのまま返したいくらいだぜ」
「……そうか…」