第10章 かけるばいんど✖️
「どうしたの?澤木ちゃん」
聞けば小さな双肩が震えた。
「及川さんは彼女、いますか?」
不意に聞かれ、感心した。
この子にも他人というものが認識出来ていたのだ、と。
何しろ、彼女ときたら丸太達と普通に話しているようで全く個を認識していないのだ。
彼女が名前をきちんと覚えているのはバレーのチームメェトだけじゃないかと常々思ってしまう程には。
「いないよ?澤木ちゃんは?」
問えば彼女は首をかしげた。
「私、知らないです」
思わず笑みがこぼれる。
これは彼女の脳内に全く該当語句が存在しない場合の反応だ。