第1章 わたしたちは 暖かいね
side/N
1フレーズ歌って、口ずさんでた潤くんに歌を任せた。
愛しい声の邪魔にならないように、弦を押さえる。
「もういない…ない」
若い頃より歌がうまくなったっていうのもあると思う、
潤くんの歌い上げるそれはやっぱり美しかった。
「最高の誕生日だな~」
「なにが」
「潤くんの生歌」
唇を寄せようとすると、それを拒んで潤くん自ら口づけてきた。
「俺は大丈夫だから。あんまり色々考えんなよ」
色々考えて爆発するアンタの、どの口が言うかと思ったけど、
その一言がなんだか無償に温かかった。
「潤くんもね」
ウインクすると呆れた顔で、手を振って部屋を出て行った。
その姿を、この幸せをできるだけ焼き付けないように、
やっぱりあんまり興味がないように見送った。
傷つかないように。傷つけないように。
生ぬるいくらいがちょうどいい。
わたしたちは 暖かいね