第79章 進展
「あの、これ……?」
「ほらほら、始まるっスよ」
繋いだままの手を引かれ、私はそのシートに横たわった。
……そう、横たわったのである。
以前、涼太と一緒にプラネタリウムを観た時は、映画館のような、ごくごく普通の座席だった。
でも今私の下にあるのは、白くて大きな……雲の形をしたベッド。
暗転する直前に辺りを見渡すと、投影機を挟んで後ろ側が普通のシート……そして、投影機より手前に、私たちが寝ている雲のシートが5席、少し前には緑の……芝のようなシートが3席ほどあった。
「前の時は貰ったチケットだったから、ノーマルシートだったんスよね。こういう雲シートで観てみたいなーって思ってたんスよ」
「こんな席があったの、気が付かなかった……」
施設のマークが同じだから、きっと同系列の施設なんだろうとは思っていた。
でも以前は、そわそわしていて気が付かなかったみたいだ。
ふっかふかのシートに、丸くて柔らかいクッションがいくつか置いてあって。
まるで、部屋の中みたい。
そして、ここは5席ある中の真ん中……投影機の真ん前、ど真ん中だ。
横になってみると、前に観に来た時よりもずっとずっと没入出来そうな感覚。
ゆっくりと星が浮かび上がって、檜の香りに包まれて。
今感じられるのは、満天の星と触れ合った右手の熱い感触だけ。
きらきら、きらきら。
この世の物じゃないみたいだ。
今、自分がどこにいるのかも分からなくなりそう。
ふわふわとこのまま、柔らかい雲に乗って飛んでいけるかもしれない。
当たり前でしょって笑われそうだけれど、プラネタリウムって、いつも一緒じゃないんだ。
ちゃんとプログラムがあって、読み手さんも違うひとで。
同じ星を見ている筈なのに、全く違う世界観。
これって……なんにでも言えることなのかな。
ひとつじゃないんだ。
誰と見るか、いつ見るか、どういう気持ちで見るか、どうやって見るか……物事って、ひとつなようで、ひとつじゃない。
全部に共感は出来ないかもしれない。
でも、理解することは出来る。
沢山のひとと出逢って、沢山の事を知って、優しいひとになりたいな。
涼太みたいに。