第2章 今宵月が見えずとも
「おい頼む離してくれ。もう何もしないから勘弁してくれ。頼むから、なあ」
男は懇願するような目をオレに向けてくる。だが本当に彼女に何もしないという確証はない。オレが男を離さずにいると、彼女がおずおずと口を開いた。
「……辰也君、離してあげて。もうお終いだから……大丈夫だから離してあげて」
彼女がそう言うのなら仕方ない。様子を見ながら少しずつ拘束を解く。完全に解放すると、男は自分の荷物を持ち彼女へ向けて吐き捨てるように言った。
「お前に関わったせいでロクなことがない。もう二度と俺の前に現れるな。お前らもこの女に関わるとロクな目にわねえから気をつけろよ」
そんな捨て台詞を残して、男は逃げるように立ち去った。
男の姿が完全に消えてから、福井さんが放り投げていったオレの傘を差しかけてくれた。
「氷室お前ムチャし過ぎだ。今回はあのオッサンが弱かったから良かったけど、もしお前がケガでもしたらどうするつもりだった」
「すみません、福井さん」
「室ちん時々変なムチャするよね」
「変なムチャって……ヒドいなアツシ」