第2章 今宵月が見えずとも
「はい、こっちが辰也君の分でこっちが敦君の分ね。いつもありがとう。また来てね!」
彼女の笑顔に見送られて店を出る。アツシがこの店を贔屓にしている理由がなんとなくわかる。厳しい練習の後でも、あの笑顔からは元気を貰える気がするからだ。もっとも、アツシにとってはケーキの方が重要みたいだが。
「室ちんてさぁ〜、甘いものそんなに食べないのにあの店のケーキだけは別だよね〜」
「あの店のは甘過ぎなくて美味しいからね」
「……ふーん、そんだけ〜?」
「どういう意味だい?アツシ」
「ん〜、別にぃ〜」
アツシは時々、妙にカンが鋭い。