第6章 繋がる事はない
突如、何処からか不穏な気配が絵梨の頭の中に差し込んだ。
力がひしめき合う。戦闘だろうか。トリオン兵が付近に出現したのだろうか。
いや違う。もしそうだとするならば、この基地にも出動要請がかかってもおかしくないのだから。
そうでないとすればこれは何なのだろう。
他の隊員はみな気付く様子も全く見えず、ただ楽しげに会話を弾ませていた。
「ごめんなさい。私少し外に出てくる。」
「絵梨さん?どうしたの?」
「ちょっと風に当たりたくなってね。宇佐美ちゃん…だっけ。多分暫く戻らないと思うけど、帰ったらまた話聞かせてもらえる?」
「へ?あ、はい!わかりました。」
「ん?どうかしたの?」
「いやぁ、絵梨さんに宇佐美ちゃんだなんて呼ばれた事なかったから少しビックリしちゃって。いってらっしゃい。」
絵梨はそのまま柔らかく微笑むと、部屋のドアを静かに閉じた。
廊下の明かりをつける事なく、壁を伝って足早に外へ向かう。何か思うところがあるのか、瞳の闇はより一層増し、廊下の暗がりと同化して消えていた。
得体の知れない何かを手繰り寄せる様に。外へ出ると本能のまま感覚に従って、地面を蹴る音だけを残していく。
…大人しく渡す訳にはいかないな。」
そして遠巻きに聞こえた声に、絵梨は足を止めた。
声の持ち主はすぐに分かった。少しだけ間の抜けた、しかし少しだけ緊張が隠れた声。
絵梨を玉狛支部へと案内した。そして、絵梨の素性を見抜いた者。
迅。
「…トリガー起動。」
そしてその迅の前には複数の部隊。
状況こそまだ把握しきれていないが、これだけはすぐに看破できる。
今この場では彼らは皆迅の敵である事。
「お前も知っていると思うが、遠征部隊に選ばれるのは黒トリガーに匹敵すると判断された部隊だけだ。」
そして反対側から聞こえた声を疑った。
最初、絵梨と対面した者の声。
そして、その声が発した言葉でおおよその理解は可能。
黒トリガーに匹敵する部隊が玉狛支部を訪ねる理由。
現在玉狛支部が所持する黒トリガーは迅の所有するもの。そして、
「遊真のトリガーを奪いに来たのか。」