第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
それから俺とその女の奇妙な親交が始まった
吸血鬼と人間が馴れ合うなんて本来なら有り得ない
…有り得ないんだがな
「赤司さん、こんにちは」
庭に行く度に彼女は俺を笑顔で出迎えた
そこにあるベンチに腰掛けて、他愛のないことを話した
庭に成っている作物や花、森の動物、更には昨夜の夕飯の話までした
とは言っても、話すのは大抵彼女で俺は相槌を打つだけだったが
それでも彼女は楽しそうだった
俺も楽しかった
人間を吸い殺す以上に楽しいことなどないと思っていたのに、彼女と一緒にいるのはそれ以上に楽しかった
それにしてもその子は本当に変な子だった
普通の人間なら学校などに行っているはずの時間でも、俺が訪ねた時には必ず家にいた
それに、彼女が一緒に暮らしていた両親も、
何故か俺を拒まなかった
自分の娘が吸血鬼と親しくしているのにまったく止めないなんて、無頓着なんだか寛大なんだか
…いや、無頓着ではなかったな
何気ない会話の中でも、彼女が自分の両親に大切に思われているのがすごく伝わってきた
俺と彼女がベンチで談笑している傍らで
母親が微笑みながら花の世話をしているなんてザラにあった
すごい時には、夜になったから帰ると言い張る俺を彼女の父親が強引に夕飯に引っ張り込んだこともあった
…本当に、怪物に寛大な家柄だった
初めて出逢った類の人間に俺は戸惑いながらも、悪い気はしなく
それと同時に思った
この寛大さが、彼女たちが村人に疎まれる理由なんじゃないか、と
人間が怪物と馴れ合っているから
だから村人たちは怪物に寛容な彼女たちを嫌っているのではないか、と
…思っただけで、聞きはしなかったが