第22章 【きっかけ】
「何だそれ、格好いい。」
木下が感想を漏らした。
「だろ。」
力はニヤッとした。
当時それを生で言われた力はもちろん衝撃を受けた。まだ家も学校もまだ慣れきっていない、敬語が抜けてないこの義妹はそれでも自分を兄と定めその為に戦ったのだと思った。
「その時思ったんだ。いきなり妹にされたのに俺みたいな根性なしを守ろうとしてくれる子がそうそういるのかなって。なら俺だって応えなきゃって。」
力は語った。
「根性なし云々(うんぬん)は聞かなかった振りするけど、それで今のアレかよ。」
木下が呟く。
「そうだよ。」
だからその時力は言った。
「わかった。じゃあ兄貴の言う事聞いてくれるかい。」
「はい。」
「いい子だね。とりあえずまず2つ、せめて俺に敬語は勘弁して。あと、隠し事しないでくれるかな。」
「えと、」
美沙は少し戸惑う。
「俺の事を思ってくれるのは嬉しいけど、それで妹が影で苦しむ方が辛いから。」
「わかりま、もとい、わかった。」
「よろしい。」
力が笑うと美沙はつられたように笑った。
「というかさ、隠してるのバレバレだし部活の奴が見てたらこっちに話来るから無駄な抵抗はやめな。」
「私は包囲された犯人かっ。」
なかなかよい突っ込みだった。この辺から2人はやっと兄妹になれた気がすると力は思う。
「美沙は、あいつは、そんな感じで俺を否定しない。意見の食い違いはあっても俺から離れようとはしない。何があっても美沙は裏切らないってことに俺は慣れちゃって今更抜けられないんだ。」
力はここで自嘲気味に笑った。
「今あいついなくなったら俺結構きついかも。」
「お前のことだからいなくなっちゃダメとか言ってんのかと思ったよ。」
木下がからかい笑いをした。
「もう言ったよ。」
木下と成田は硬直した。
「それ言う事聞くのか。」
木下がさすがにそれはないだろと言いたそうに言った。
「ああ、でも美沙さんは聞くだろうな」
成田が言った。
「それで兄貴が喜ぶなら。わかってて言ったんだろ、縁下。」
指摘されて力はぼやけた笑みを浮かべた。
次章に続く