第47章 【越えてしまえ】
「わかってると思うけど」
力は義妹を抱き締めたまま言った。
「父さんと母さんには内緒な。他の人にも出来るだけ、どこから漏れるかわからないから。」
美沙は頷いて自分から唇を重ねてきた。
「珍しく悪い子だな、」
力はふふと笑って言った。
「どこで覚えた。誰かに入れ知恵されたのか、及川さん辺りとか。」
美沙は首を横に振る。力もわかってはいた。義妹はボケたところも目立つが何でもかんでも人に言われたことに乗っかるほど馬鹿ではない。
「ああごめん、悪い子はむしろ俺だ。」
力は肩に顔を擦り付ける義妹の頭を撫でながら呟く。
「なんで。」
「お前をこんな風にしたから。」
「すなわち」
「お前が素直でいい子なの利用して、自覚なしで惚れられてるのも知ってて、言うこと聞かせて、俺に縛り付けた。」
「惚れ、まぁええわ、てゆーか私はどこにも行かへんよ、何度も言うてるやん。」
美沙はモゴモゴと呟いた。
「そうだね、でも何で縛るか言ってやろうか。」
力は義妹の耳元で言った。
「お前がよほど嫌いな奴とか慣れてない奴以外は誰にでも優しいから。」
「う、うん。」
「不思議そうにするなよ、実際そうだから。だから不安になる、でも、」
ここで力は義妹をもう一度抱きしめ直し、しかし勢い余って兄妹の体勢は90度回転した。
「覚悟しろよ、今度こそもう逃げられないぞ。泣いても喚(わめ)いても離さないからな。」
なかなか目を合わさない義妹の視線を逃さず力は言った。心のどこかで病的な事を言ってるな、と自分を嘲笑(あざわら)う。自分は美沙のことになると本当に頭がおかしくなる。
「兄さんばっかずっこい。」
美沙が膨れて珍しく文句を言った。
「兄さんこそ、私を兄さんなしで生きられへんようにしといてどっか行ったら許さへんから。」
その言葉は力の心に刺さった。ハハハハハと力は思わず声を上げて笑った。
「安心したよ、お前もそう思ってるってわかって。」
そうして兄妹はしばらくくっつきあう。
いっそのことやってしまえとばかりにやや強引に一線を越えてしまったが、少なくとも力に後悔はなかった。
次章に続く