第45章 【義兄の怒り、義妹の涙】
ひるみながら相手は続ける。男バレのチームメイト巻き込んでまで庇うなんてその妹にそこまでの価値があるのか、と。
聞いた瞬間体が一気に熱くなり、耳からも血が出るんじゃないかと思うくらいの怒りが込み上げた。後ろで西谷が何だとっ、と声を上げ田中がノヤっさんやめろってと抑えているのも聞こえる。
田中が今回意外と冷静なのはこの場合幸いだった。それを聞いた力も目の前の相手に飛びかかってボコボコにしたい衝動を何とか抑えることが出来たのだ。
「そっちにうちの妹の価値を決められたくない。」
力は静かに言った。
「やめてくれ、それ以上何か言われたら俺君らに何するか自分でもわからないから。」
多分自分の顔からは今きっと表情がなくなっている。
「もうやめよう。俺はこれ以上どうこうする気ないし。お互い困る前に、さ。」
ギリギリの理性を保ってここで力は相手に笑いかけた。相手は3人とも硬直していて何も言ってこないのを確認し、力は彼らに背を向けて階段を降りて踊り場の義妹と仲間のところに戻る。
「みんなごめん、待たせた。」
仲間は気にするなと言った風に頷き、美沙は仲間達と一緒に大人しくしていたがぺたんと座り込んだままで顔をあげようともしない。涙で顔はボロボロ、おそらく足の力が抜けて立つのも億劫なのだろう。再び力の胸が痛む。
「行こう。ほら、美沙も立って。」
美沙は頷いて立とうとするがうまくいかない。二度三度失敗してまた泣きそうな顔をする。
「どうしよ、立たれへん。」
大丈夫だよ、と力は微笑んで手を貸してやる。美沙は差し出された力の手を掴んでようよう立ち上がり、力以下、男子排球部の2年生達も一緒にその場を後にした。
屋上への階段から離れた辺りで美沙が堪え切れなくなったのか声を上げて泣き出した。
次章へ続く