第5章 テンカン
その日は珍しく、アリスは私の元へ訪れなかった。
久しぶりに安心できる状況だからなのか、意識がいつもよりはっきりしている。
それは多分、普段なら聞かない悲鳴やら、断末魔の叫び声やら何かが爆発する音やら。
とにかく船もすごい揺れているのがわかるくらい外が騒がしかった。
嵐でも来たのかもしれない。
薄い意識の中でそう納得する。
今の喧騒の中なら逃げる事くらいできそうだが、如何せん、身体の感覚はない。
ただ、いつもは痛みで意識がとんでしまうが、今はそれがなく、むしろ心地よい眠気が襲ってくる。
あぁ、やっとまともに眠れる。
その安心感に包まれると、私の意識は沈んだ。
その頃には、喧騒が止んでいるだなんて気づく事なく…。
「なかなかこがね持ちだなぁー!」
元気の良い声と言うべきか。
この船では聞いた事のないような明るい声で、私の意識は浮上した。
目を開けたいが、血で固まって相変わらず開かない。
しかし、その声は本当にすぐそばまで来ているような響きだった。
今では片方しか聞こえない耳で必死に音を拾う。
「意外と当たりだったか。これ運び終えたらこの船は沈める。」
どうやら一人ではないようで、今度は落ち着いた声が響いて来た。
船を沈めるって…この船だろうか?
だとしたら困る。
海に投げ出されるなんて、ひどい仕打ちではないか。
どうにかして声をあげて気付いてもらおうとしたが、もう声を出す事自体なかったし、水を与えられていなかったため、全く声が出ない。
しかし、どうにかして気付いてもらわなくては。
頭はせわしく動くくせに、私の身体はどこも活動をしていなかった。
「はいはーい。と、ん?」
「何だ?」
「あんなところに変なドアあるな。」
明るい声がそう響き、予想外の出来事に少し手が動いた気がする。
足音は確実にこちらへ向いていて、私の早とちりでない事を伝えていた。
「ふん。まだ宝があるのか。思ったよりいい収穫だ。」
足音と声が次第に近づいて来て、確信的に私は安心感を得た。