第29章 チョーカー
「お前、子供に化けられるなら婆さんにも化けられないのか?」
唐突に聞かれたのは、私が甲板を掃除している時だった。
「…お婆さん、ですか?」
周囲には誰も居ない時を見計らってこのタイミングだったのだろうか、私と船長さんが話しているのをみなさんは気にする事なく立ち動いている。
私の反復に鷹揚に頷かれて、何か意味があってのことなのだろうと察した。
「お年寄りにはなれないんです。何かあった時に対応出来ませんので…」
子供なら機動力はある、若者なら力がある。
しかし、どうしてもお年寄りというと思わぬことが障害になってしまったりする。
もちろんそんな事のない元気な方を見かける事は少なく無いが、もし、という可能性は誰も求めては居ないのだ。
私は、向こうの世界で絶対に護らないといけないものがあったから…。
私の返答に眉間にシワを寄せた船長さんは何も言わずに踵を返して立ち去った。
何も言われていなかったが、何と無く、都合の悪いことがあったのだろうと察する。
しかし、まだ教えてもらえないということは、私が知らなくていいということだろう。
あの、私が目覚めた時の、迎えにきてくれたのは果たして本当に船長さんだったのかはまだ知らないけれど、私は聞こうとは思ってないから良い。
船長さんはきっとそんなこと行ってくる人じゃないだろうし、私もわざわざ聞いて違うと言われたら恥ずかしいので言えない。
そろそろここも綺麗になったので、バケツを持ち上げて移動を試みる。
「トウカ!!」
同時に名前を呼ばれ、声のした方を振り向けば、良い笑顔のシャチさんがいた。