第7章 初太刀・初脇差
「世話になったな、…何処の本丸か分からない旦那達。」
笑顔を加州達に見せ、寝ている秋田を背負って、何処かへ行こうとしていた。
「ちょ!何処行くつもりなの?薬研!?」
「駄目ですよ!僕達の手当ては完全に治すモノじゃないんですから…!」
兄弟である乱と五虎退が必死に止める。五虎退に至っては涙目になっている。
「これ以上は迷惑はかけられない。それに俺達はアンタ等の所の刀じゃない。」
「これ以上って…。」
「で、でも!このままじゃ、秋田君が…折れちゃいます!」
秋田藤四郎に巻かれた包帯は赤く染まり、元の白色は面影も無くなりつつあった。
加州は黙ってこの様子を窺っていた。野暮に横槍を入れても関係がない刀剣に言われたって、意味がないだろう。
「そうだぜ。五虎退が言っているみてーに、秋田って奴が折れるかもしんねーよ?」
「だったら、あるじさまにはなしましょ?前田くんもおなじけいいで、ほんまるにいますし。」
ね!加州!!パンと両手を軽く叩きながら、加州に向かって今剣が提案を提示する。
壁に寄り掛かりながら、外の見張りをしていた加州は間の抜けた声で返事した。
「きいてましたか?加州!」
「ごめん。何の話してた?」
「薬研と秋田の事だよ。…あの人に話さないかって、本丸に仲間として迎えようって。」
両頬を膨らませて、加州を見上げる今剣。集中し過ぎて、内容を聞いていない為さっぱりである加州に、小夜が話した。
(迎えるね…。アイツがこれを見たら、連れて帰りそうだな…。絶対やりそう、意外にお人好しだし。それに、折れそうな奴が目の前にいるのに、放り出すなんて出来ない。)
自分が辿った”刃生”が”刃生”だから、”折れる”のが嫌だ。自分も他刀も…、折れるのも折られるのも…。
二振りに近づこうと、居た場所から離れる為一歩足を踏み出した瞬間ーー、
「はあ?」
加州の目の前を”何か”大きな物体が横切った。状況的には”飛ばされて来た”と表現するのが正しいのだろう。
(何なんだ…。)
その”大きな物体”が通った軌道を見れば、建物内に有った物にぶつかったのか、砂埃が上がっていた。目を凝らして、砂埃内を見てみれば、良く知るモノがそこに居た。
「歴史修正主義者…!?何で…。」
口に短刀を銜えた異形の姿。それは、最近よく見る敵であった。