第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
食事が終わると、話が弾んだ莉鎧と紅炎はそのまま書斎へと行ってしまった。
用が済んだと判断した莉蘭は自室へと戻り、ベッドに腰掛けながら肩の凝りをほぐす。
部屋には一人にしてもらった。
今は他人にいろいろと気を使うのが出来そうになく、相手が居れば八当たりしてしまいそうだった。
莉蘭は温かい緑茶を淹れると両手で包んで一人暖まる。
一口啜ると緑茶の香りが広がり、先程までのストレスが吹き飛んでいく様だ。
一息ついてほっこりしていると誰かが扉をノックする音が聞こえた。
返事を返したが扉は開く気配が無い。
それどころか返事も無かった。
不思議に思って扉を開ければ、そこに立っていたのは先程莉鎧と共に消えた紅炎だった。
「こ、紅炎様。何故此方に?」
混乱したまま莉蘭が問えば、紅炎は取り敢えず部屋に入れろと要求してきた。
仕方なく中へ通すと、さも当たり前かの様に椅子に腰掛けている。
何なんだこの人は。
一体何しに此処へ来たのだろう。
「紅炎様、如何なさったのです?父様…国王とお話しになられていたのではないのですか。」
莉蘭が尋ねると感情の読み取れない瞳が此方を向いた。
その赤い瞳を見た時、一瞬綺麗だと思った。
「夫が妻の元を訪れるのに理由が要るのか?」
然し、紅炎の物言いに感動にも似た気持ちは瞬時に消え失せ、代わりに苛立ちが残る。
莉蘭は内心で少しむっとした。
まるで既に夫婦になったかの様な話し方ではないか。
「…お茶でも飲まれますか。緑茶しか御座いませんが。」
そう言って莉蘭は急須に手をかける。
表情が暴露ない為の誤魔化しだった。
きっと今露骨に嫌な顔をしている。
「お前が淹れるのか?女官は如何した。」
「普段は居りますが、今は少し一人になりたかったので。それにこれくらいの事、出来ても別に構いませんでしょう。」
遠回しに帰れと言っているのだが、気づいているのかいないのか、紅炎は席を立つ気配は無かつた。