第28章 文化祭②/黄瀬*氷室*赤司
「……!」
突然の一言に驚きを隠せなかった。
「…ごめんなさい!今の忘れて!」
名前が耳まで真っ赤にして、慌ててかき消そうとしているのを見ると嘘ではないとわかる。
「…ちょっと練習に付き合ってくれない?そこに座って。」
彼女は戸惑いの表情を浮かべながらも、白いクロスがかけられた席に腰かけた。
俺は衣装のジャケットを羽織り、白い手袋をはめた。
そして彼女の横に膝まずき真っ直ぐ瞳を見つめた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
ふわりと微笑むと、彼女もつられてか笑みをこぼした。
彼女の手をすっと取り、言葉を続けた。
「貴女が望むなら、私はいつでもお側におります。」
彼女の顔は赤く赤くなっていき、ぱっと目を反らされてしまった。
「すごいよ…氷室くん本物の執事みたいだもん。明日女の子のお客さんみんなメロメロだね!」
「お嬢様、私は執事ですので名前でお呼びください。」
「えっ…!うー…た、辰也…。」
絞り出したように呟くと、彼女は両手で顔を覆ってしまった。
「…なんてね。ごめんね、ちょっとやり過ぎた?」
「…氷室くんは意外と意地悪だなぁ。」
反応が可愛くてついついからかってしまった。
だけど、一度だけ自分の名前が呼ばれたことに何故か胸が熱くなった。
「名前、これからも名前で呼んでよ。…お願い。」