第45章 前方互換アノード
「いいえ、むしろ香さんの方が心配です。生身の体にあんな動きが耐えられるわけありません」
エドは小声で言ったが、ヨンスには聞こえてしまっていたらしい。
「全然処理能力が足らないんだぜ……あと10分もないのに……!」
再びなだめようとしたエドが、直前でその口をつぐむ。
電波塔は目前にあった。
そこにある、中央制御コンピューターも。
つまり――
もう、パスワードがわかってなきゃならない。
なのに。
頭をぐしゃぐしゃとかきむしるヨンスからも、唇を噛んで立ち尽くすエドからも、痛いような静寂に沈むライヴィスとリトからも。
もう間に合わないんだなという、苛立ちと諦めばかり伝わってきて。
『電波塔は一番危険なエリアです』
第一のセーフハウスに出発する前に聞いた、ライヴィスの言葉を思い出す。
あの黒い“靄”がうようよいるらしい。
あれに飲まれたら、多分香くんみたくなってしまう。
仲間を攻撃するか、それかこの世界の自壊に巻き込まれて、現実世界にきっと戻れなくなってしまうか。
このままパスワードがわからなければ、
「全滅……――を避けるために、公子さんは“戻ってください”」
エドが私を見て、真剣な顔で言った。
そのとき。
ジジ、と視界にノイズが走った。
≪あなたはこの異変解決の鍵です。それは公子さん以外の誰にもできません≫
≪てことで公子、兄貴のことよろしく頼むんだぜ。俺のことが好きすぎるから心配なんだぜ≫
≪な……なに言ってるんですかふたりとも!?≫
「そうです! みんなで無事に戻るんですよ!!」
トーリスの声が、やっと、近くに聞こえた。
まるで夢から、現実に戻ってきたみたいに。
足がふらつく。頭がガンガンと痛い。
おかしな、気味の悪いデジャヴが五感の全てを支配していた。
――嫌だ。
――私は、これを、一言一句違わぬ彼らの言葉を、
・・・・・・・・
聞いたことがある。
『お前は、欠けた“X”なんだと思う』
『だから、公子が救世主なんだ』
耳元で、ギルがそう囁いた。