第10章 紅色の刀身
「好きなように来い」
「参りますっ」
そうして二人が稽古をしている音を、遠くで邪見とりんは聞いていた。
川辺の方で魚を取っていた二人は、刀が交わる独特の音を聞きながら「お?」と邪見は耳を傾けていた。
「これは……刀を交えている音……。まったく、櫻子は殺生丸様と何をしておるのか。まさか殺し合いではあるまいな?」
「殺生丸様に限ってそれはないよ! きっと、櫻子様と仲良くやってるよ」
「殺生丸様が櫻子と仲良く!? ない! 絶対にないわいっ!!」
「ええ――……そうかなぁ? りんはあの二人、お似合いだと思うんだけどなぁ」
「お似合い!? どこがじゃ! そもそも櫻子が人間である以上、殺生丸様とお似合いなどありえぬわい」
「邪見様が意地悪だ! えいっ」
「うわぁあああわしに水をかけるな! やめんか!」
「あははっ」
邪見達が戯れているのを、少し離れた場所で阿吽が眺めている。穏やかな時が流れていく。けれどそれも、唐突に終わりを告げようとしていた。
稽古中の櫻子達は、刀を交えながら遠くの方で草木を駆け抜ける人の気配を察知する。
「……っ、誰かこっちに来ます」
「そのようだな……」
ざざっと大きな音を立てて飛び出してきたのは、着物を乱した一人の美しい女。