第10章 紅色の刀身
「あ……でも、殺生丸さんに会えないと思うともっと寂しく感じてしまう気がします。何やら変な話しかもしれませんが」
「……何故私に会えぬと寂しいのだ」
「だって、殺生丸さんの顔を見れなくなってしまいますから。一緒にいた時間を覚えているからこそ、それを思い出して恋しく思うというものです」
「恋しく……」
殺生丸が言葉を繰り返したことで、はっと櫻子は我に返る。自分は何を言っているのだと。
「あっ、えっと……その! 言葉に深い意味はないのですよ!? 何と言いますか、気付いたら口から出てしまったと言いますか……っ!」
「……では、お前は私のことは恋しくないと?」
「……ええっ!? 恋しいです! あれ……?」
勢い余って殺生丸と至近距離で櫻子は力強く告げる。その距離の近さに驚いて目を見開く。殺生丸は一喜一憂する櫻子を眺めて、ふっと困ったように微笑んだ。
彼が微笑んだことで、櫻子は更に目を見開いた。もうこれ以上開けないのではというところまで。同時に初めて見る彼の穏やかな微笑みに、櫻子は自分の顔が熱くなっていくのを感じていた。くしゃっと崩れた綺麗な顔に、魅入ってしまう。
「お前は、つくづく馬鹿な女だな……だがとても新鮮な気分だ」
「え? え??」
「稽古をつけてやる。もう一度刀を握るがよい」
「……え?」
「どうした? 強くなりたいのではないのか?」
「……はいっ!」
稽古と聞いて今度は迷うことなく、刀を櫻子は握った。稽古ならいいのかと心の中で、ふと殺生丸は思うが真剣な眼差しで「お願いします」という櫻子に殺生丸も刀を構えた。