第3章 出会いのカタチ
こういうことだけ、脳から神経への伝達は早かった。
足が勝手に後ろへと一歩下がる。
手は口を押える。
一歩出ると、機械的にもう片方の足も後ろへ下がる。
視線は翔くんに合ったまま、3歩ほどヒールが後ろに下がったところでやっと頭が稼働した。
(会釈して、退散。)
それだ。
それをしようとしたと同時に、翔くんが上体を少し屈ませて私の目線に合わせた。
翔 「お時間、あります?」
・・・・・・・・誰の?
翔 「僕、もう少ししたらここの仕事終わるんですけど、ちょっと一緒に上のバーで飲みません?」
・・・・・・・・誰と?
翔 「もしよかったら、先にバーに行っててもらえれば、挨拶周りが済んだら向かいます。」
・・・・・・・・誰が?
すごく丁寧に、紳士的に喋ってる中に、一瞬だけ違う顔が見えた気がしたのは気のせいだろうか。
その一瞬見えた顔に頷かされた気がする。
それをYESの返事だと思ったらしく、笑顔で
翔 「よかった(笑) じゃあ、後で。」
と言った。
文句なし、100点満点のアイドルスマイル。
でも、それは私がドキッとする笑顔じゃなくて、ドル誌で見る笑顔。
私が好きな笑った顔は、それじゃないんだよね。
そのことが、酔ったみたいにグルグルしてる脳を少しだけ素面に戻してくれた。
何?
何を考えてんの?
どういうこと??
翔くんって、こういうことすんの???
っていうか、これ、私の妄想????
何事もなかったかのように翔くんはその場を立ち去り、私も裕美を探す続きをする。
まるでさっきの会話はデータから切り取られて、削除されたかのように。
・・・・何にせよ。
パーティーからは早退することになったのだから、裕美に言っておかなきゃ。