第16章 You're the one for me ~First~
「あー!やっと見つけた!水場!」
「…っ!!?」
突然背後から聞こえた声には驚いて振り返る。
そこには思い切り小川に飛び込み気持ち良さそうに顔を洗う青年の姿があった。
「ん?」
「……っ!」
「あんたは…俺、知ってる!歌姫だろ?!」
「…………!?」
の事を知っている者は本人が思っているよりも多いのかも知れない。
ただ、この人にまで自分の事が知られているとは思っていなかった。
(この方は……若殿様…)
もこの青年の事は知っていた。
前城主の島津家久の亡き後、佐土原城の城主となった若武者。
(島津豊久、様…)
ザブンと小川から上がり、犬のように頭を振って水を切る。
そして屈託のない笑顔での側へと寄る。
「俺、見てたんだ」
「…………?」
「あんたが歌ってる所、スゲー綺麗で…力強くて!」
「……………」
眩しい。
そんな風に今の自分を見ないで欲しい。
豊久が言っているのは十日前の祭典の日の時の事だろう。の歌も祭りを大いに彩った。
その時は、父も母も姉も居たのに今は。
「……どうしたんだ?」
「……っ…」
は突然立ち上がり、指を水で濡らして近くの石に字を書いた。
そして桶を抱えると足早にその場を後にした。
「あ!…え?ちょっと待って…っ!」
豊久の制止も聞かずの姿はあっという間に見えなくなってしまった。
石に書かれた文字を見て豊久は首をかしげる。
『御免なさい』
「何に…謝ってるんだ?」
これが、と豊久の最初の出会い。
声を失った歌姫と跡を継いだばかりの若武者。
運命の糸は少しずつ絡み始めた。
to be continued…