第16章 You're the one for me ~First~
兄、颯がの異変に気付いたのは翌日、が目を覚ましてからの事だった。
家と家族を失った兄妹は村の空き家を譲り受ける事になった。
村人達も二人の事情を知り、食べ物や衣類など毎日のように届けてくれていた。
「…?良かった、気が付いたか…」
「…………?」
「?どうした?まだ気分が優れないか?」
「………っ…?!」
「……?」
「……………」
「お前、まさか……声が…?」
颯の問い掛けに応えようとは喉を押さえて口を動かすが言葉がでない。
何度繰り返しても声が出る事はなかった。
苦しいとも悲しいとも言えず、ただの目からは涙が溢れるばかりだった。
「…落ち着け、俺が何とか治る方法を見つけるから」
「…………っ」
颯も動揺していたがそれを無理矢理に押し殺しの背中を撫でて落ち着かせる。
(父様達を奪っただけでなく…の声まで奪うのか……)
兄の心の痛みを感じたは颯の着物の袖を引いた。
「?」
「…………」
『水を汲んでくる』
布団から出たは土間床に指で字を書いた。
「……まだ無理するな」
『大丈夫』
そう書き加え立ち上がると、は桶を持って家の外へと出た。
「…………」(ここは昨日と何も変わらないのに…)
綺麗な小川、生き生きとした木々、鳥のさえずり。
自分の置かれている状況だけが劇的に変わってしまった。
鳥達がを見つけ集まって来る。
誘うようにさえずるがが一向に歌おうとしない事がわかると近くの枝にとまり様子を伺っていた。
(ごめんね、歌えないの…)
試しにもう一度声を出そうとするがやはり出ない。
あんなに好きだった歌がもううたえない。
いっそ父達の後を追って死んでしまおうか、でもそんな事をしたら兄が独りになってしまう。
もっと辛い思いをさせてしまう。
(そんなの…ダメだ…)
は膝の上で拳を握り締めた。
どうしようもない絶望感。
昨日はとても美しく見えたこの場所も、今日はその景色の色すらも分からない。