第1章 一触即発【カネキ(白)/東京喰種】
「カーネーキーくーん、あーけーてー!」
一向に開かれないドアを思いっきり叩く。いや、壊れない程度に叩く。私は彼に何か用があるわけでも無いのだが、なんとなく家を見かけたものだから寄ってみたのだ。
案の定、そう易々と受け入れてはくれなかったが。
ドアの奥から足音が聞こえる。一歩一歩着実にこちらへ近づくその音の主は恐らくカネキくん。そうであると信じたい。
ノブが回り、ドアが開かれた。顔を少し出してこちらを見たのはやっぱり白髪の彼。よっ、と軽く挨拶をしてみたものの、返ってきたのは溜息だけだった。
もっと喜んで欲しいものだ。年頃の女子が家に遊びに来たのだから。
「…で、何の用?」
「用なんか無いよ、見かけたから来ただけで」
リビングに通され、私とカネキくんがテーブルを挟んで向かって話す。他の住人の気配が全く無い事から、恐らく外出しているものと思われる。
一気に黙り込んだ彼の表情を伺う様に、その少し呆れた顔を見つめた。
「あのさ… 用無いなら帰ってよ、こっちも暇じゃないんだからさ」
「見るからに暇そうじゃん!家に一人っきりみたいだし?」
「僕は資料とか読まなきゃいけないんだけど」
この男は女心を分かっていない。構って欲しいと思う私の心を分かってない。なんて野郎だ。
一気にむすっと雰囲気を暗くさせた私を見て、またヤツは溜息を吐いた。
私を邪険に扱っている様な感じがして、居心地も悪くなったし、それと同時になんだか心が痛んだ。
一応言っておくが、カネキと私はそういう関係にまで発展していない。あくまで昔からの顔見知り、知り合いというだけであって。私もヤツなんかと進展することを望んではいないのだ。
そして、これらは全て本心である。
「じゃあいいよ、月山んとこ行って一緒にあの、えーと… なんか喰べてくる」
えっ、と声を漏らしたカネキ。何が不満なのだろうか。眉間に皺が寄った。
まあそんな、乙女を帰らせようとしたヤツにやる情なんて持ち合わせちゃあいない。お邪魔しました、と淡白に告げて席を立った。