第2章 あの日から
とぼとぼと、長い廊下を歩いていると、前方から近づく人影に気づいた。
「あー ミモザじゃん。なに辛気くさい顔してんだよ」
シルバおじさまとそっくりな銀髪の彼は、ぶっきらぼうにそう言うと口に含んだガムをふくらませた。
「キルアくん・・・」
まだ幼さの残る彼だが、私はひそかに信頼を寄せている。
思い切って相談してみることにした。
「あのね、キルアくん。私の友達の話なんだけどね」
「うん」
「年上の男の人から、添い寝して欲しいって言われたの。付き合ってもいない人なのよ?それって、どういうことだと思う?」
「あのなー ミモザ 、男女7歳にして席を同じくせずって言葉、知ってる?」
私は首を横に振った。
「つまり、7歳くらいから性の区別をきちんとしろってことで、 ミモザ くらいの年齢の奴が異性と一緒に寝るってことは、まず性交渉すると考えて間違いないな」
「せ」
性交渉。頭が真っ白になった。 そして気づく。
年下の少年に、何を言わせてるんだろう、私は。
「ご、ごめんキルアくん!こんなこと、聞くべきじゃなかったね」
「別に構わないけどさ、ミモザ 。イルにいからベッドに誘われたの?」
「え」
「図星かよ」
「ち、違うよー。友達のことだってば」
無理やり作って見せた笑顔は、おそらく引きつっているだろうと思われた。
まったく、勘のいい子だ。
「どうすんの?」
「・・・・・・どうしよう」
「優柔不断。 ミモザって、しっかりしてるのか抜けてるのかわかんないよな 」
「俺はどっちでもいいけどさ」
そりゃあ、私がイルミさんに抱かれようが何されようがキルアくんには関係ないわよね、と言おうとしたところ、
「兄貴より後でも、前でも。俺は必ず、いつかあんたを抱くからな、ミモザ 」
びし、とひとさし指を向けられて私は思わず笑ってしまった。
「ありがとう、キルアくん!なんだか元気出たよ」
じゃあね、と言い残して私はその場を去った。
ちょっとは本気にしろよ、というキルアくんの呟きは、私には聞こえなかった。