第7章 境界
招待された今回の豪華客船のパーティー。貴族達ばかり……というところが気になるけれど。
「姫様、愛用の銃をご用意しておいた方がよいかと思われます」
「それもそうね。何があるかわからないもの」
クライヴお手製のスコーンが美味しい。どんな過去があったって構わない、関係ない。今の私の隣にいるのはクライヴで、セバスチャンではない。それだけは、何よりも揺るぎない真実。
「クライヴ」
「はい、なんでしょうか」
「スコーン。美味しいわ」
「……え? あ、はい……ありがとう、ございます?」
何故かちょっと照れているクライヴが可笑しくて、思わず笑みが零れる。
彼でも、こんな顔するのね。
「愛用の銃はアンダーテイカーに預けていたわね。取りにいかなくちゃね……」
「あの執事も連れて、ですか?」
「使えそうじゃない? アンダーテイカーを笑わせるのに」
生憎、私はあの男を笑わせる技術は持ち合わせていない。人間の感性とは確実にずれているあの男に、人間が作り出す笑いがうけるとは到底思えない。現に、以前どれだけ努力してもぴくりとも笑わなかった憎たらしい奴の口元を思い出した。
今日は腹がよじれるほど……ね?
「支度を済ませて、すぐに向かいましょう」
「どっちがヒロインか、わからないわよね。本当に」
スコーンをもう一口齧った。
馬車で向かうのは、少しだけ通い慣れ始めたアンダーテイカーの店。馴染になりつつある三人で、薄暗い店の扉を開けた。